創業者の奥田潤は証券会社・電子部品商社を経て、1999年10月に京都市北区で独立した。当初は液晶パネル用導光板や携帯電話コネクタ向けの精密金型部品を手がける下請け加工業で、0.1mmピッチの微細金型を成立させるほどの超精密加工技術を蓄積していく。2001年に有限会社を設立し、2002年に南区へ工場を移転、2006年にベノック株式会社となった。
転機は2008年のリーマンショックだった。「下請けのままでは続かない」との判断から、自社が持つ金属加工技術をもっとも活かせる製品としてパターに着目。2009年に削り出しパターの開発へ着手し、2011年6月に最初のモデルを発売、2013年3月にはパター専業へと事業そのものを転換した。
広告を打たず、量販店にも置かず、取材も基本的に受けない。情報は一部のトップゴルファーに直接届ける、という秘匿性の高い流通戦略を採りながら、口コミでプロ・アマ問わず国内外へ広がった。
ベノックの中心はフルオーダーの「オートクチュール」で、形状から一本ずつ設計を起こす。既存の60種以上のモデルから形状を選びスペックだけを合わせるセミオーダーの「プレタクチュール」、完成品の「プレタポルテ」、自分で調整できる「BISシリーズ」(2019年12月発売)と、関与度に応じた入口が用意されている。
フィッティングは5段階で進む。現用パターの打撃映像から体と手元のズレが最少になる長さ・ライ角・見え方を割り出し、複数ヘッドで形状の好みを絞り、出球が揃う「バランス角」を探し、シャフトとグリップの相性を詰め、最後にヘッド重量と総重量で振り心地を決める。フィッティングのみの利用も可能(税込22,000円)。
加工面では、素材を一度もつかみ替えずに5面を仕上げる「ワンチャック5面仕上げ加工」により残留応力を抑える。フェースにはメッシュ状のピラミッド形状を刻む独自の「シークレットダイヤフェイス」を採用し、光の反射を制御しながら打感を和らげる。近年は最上位の「EXCLUSIVELINE」も展開している。
同じ国産削り出しパターでも、ベノックは「完成品を選ぶ」のではなく「フィッティングから一本を起こす」ことを前提に組み立てられている点が際立つ。工房系ブランドの多くがモデルラインを軸に展開するのに対し、ベノックはオーダー区分そのものを商品体系にしている。
一方で、広告を出さず量販店にも並ばないため、試打してから買う導線は京都のスタジオか代理店フィッティングイベントにほぼ限られる。店頭で気軽に比較したい場合は、流通量の多いブランドのほうが向く。