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目覚ましより先に起きるのは、気合いではなくホルモンの話

ゴルフの日だけ、目覚ましより先に目が覚める

半分ホント 現象も生理学的な裏付けも実在する。ただし引き金は「楽しみだから」ではなく「起床時刻を知っていること」で、しかも早く目覚めた分だけ睡眠は削られている

目覚ましは5時にセットした。なのに4時38分に目が開いて、天井を見ながら「あと22分ある」と計算している。 仕事の日は目覚ましを3回止めてからようやく起き上がるのに、ゴルフの日だけこれが起きる。 これは気合いでも思い込みでもない。体は、起きる予定時刻を知っていると、その前から起床の準備を始める。ホルモンのレベルで確認された現象だ。 ただし、よく言われる「楽しみだから目が覚める」という説明は、少しずれている。そして早く目が覚めたその朝、あなたはたぶん寝不足でもある。

あるある:目覚ましより先に、目が開く

アラームは5時。目が開いたのは4時38分。 二度寝しようとして天井を見て、結局スマホで現地の天気を確認して、そのまま起きてしまう。

仕事の日はスヌーズを3回押してから起き上がるのに、ゴルフの日だけこうなる。 子どものころ、遠足の前の日にも同じことが起きていた。

まわりに話せば「よっぽど楽しみなんだね」で片づく話だ。実際そう説明されることがほとんどだと思う。 ところがこの現象は実験室でも観察されていて、しかも楽しみでも何でもない被験者に起きている。 つまり「楽しみだから」だけでは、説明がつかない。

しかも厄介なことに、この早起きは得をした気分になる。就寝時刻を変えていないなら睡眠時間が削られただけなのだが、朝は妙に頭が冴えていて、そのまま車に乗ってしまう。 この記事では、なぜ体が先に起きるのかを内分泌と自律神経の研究まで下りて確かめたうえで、その裏側にある睡眠不足のほうも一緒に扱う。

で、本当なのか:起床予定の1時間前から、ホルモンが動きだす

結論から書く。体は起きる予定時刻を先読みして、その前から起床の準備を始めている。

これを示したのがBornらの短報で、1999年に『Nature』に載っている。要旨にはこう書かれている——「睡眠がある時刻に終わるという予期が、覚醒の1時間前に、血中の副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropin, ACTH)濃度の顕著な上昇を引き起こす」。

ACTHは脳下垂体から分泌され、副腎にコルチゾールを出させる指令ホルモンだ。 つまり体は、目が覚めるより前に「そろそろ起きるぞ」という化学的な号令をかけている。 目覚める瞬間にいきなりスイッチが入るのではなく、1時間前から助走しているということになる。

なお、この短報は本文が有料公開で、この記事では公開されている要旨に書かれている範囲だけを紹介している。被験者数や実験条件の細部には踏み込まない。

上がるのはホルモンだけではない。血圧も先に動いている

同じ「予定時刻の先読み」は、自律神経の側でも観察されている。

Kaidaらが2005年に『Industrial Health』に報告した研究では、高齢者9人(平均74.1歳)に20分の昼寝をしてもらい、自分で決めた時刻に自力で起きる(自己覚醒)条件と、外から起こされる(強制覚醒)条件を比べた。

結果はこうだった。

条件 覚醒前 覚醒の瞬間
自己覚醒 予定時刻の前から血圧がじわじわ上昇 心拍の急上昇は起きなかった
強制覚醒 準備なし 心拍・血圧がともに急上昇

著者らは「自己覚醒は、覚醒前の自律神経の活性化を通じて、睡眠から覚醒へのより滑らかな移行を促す」と結論している。

ただしこれは高齢者9人・20分の昼寝という小さな研究で、そのまま夜の睡眠に当てはめられるものではない。ここで言えるのは、「予定時刻の前から準備が始まる」という向きが、ホルモン以外の指標でも確認されている、というところまでだ。

「楽しみだから目が覚める」説は、半分ずれている

ここがこの記事でいちばん言いたいところだ。

Bornらの実験で引き金になったのは、わくわくでも緊張でもなく、「何時に終わるかを知っていること」だった。 採血のカテーテルを入れて実験室のベッドで眠る被験者に、遠足のような楽しみはない。それでも予期があるだけでACTHは上がっている。

順番を並べるとこうなる。

よく言われる説明 研究が示している順番
ゴルフが楽しみ → 興奮する → 眠りが浅くなる → 早く目が覚める 起床時刻を知っている → 体が先に準備を始める → 予定より早く目が覚める

「楽しみ」の影響がゼロだと言いたいわけではない。楽しみも緊張も、寝つきや眠りの深さに確かに影響する。 ただし主犯は感情ではなく、時刻の予期だと考えたほうが、観察されている事実とよく合う。 だから同じことは、出張の朝にも、早朝便に乗る朝にも起きる。ゴルフの日にやたら目立つのは、単に起床時刻がふだんより極端に早いからにすぎない。

もうひとつ。この現象は誰にでも毎回起きるわけではない。 自己覚醒についての文献レビュー(Vergaら、2023年、『PLOS ONE』)は、複数の研究の参加者715人を合わせても自己覚醒ができる人は17%程度にとどまり、「比較的まれな現象」だと整理している。 「毎回きっちり5分前に目が覚める」という人は、実はかなりの少数派だ。

目が覚めた直後、コルチゾールが跳ね上がる(CAR)

起床の準備の話に続いて、起床直後にも大きな動きがある。 覚醒したあと短時間でコルチゾールが急上昇する現象で、コルチゾール覚醒反応(CAR: cortisol awakening response)と呼ばれている。

興味深いのは、この山の高さがその日の予定によって変わると報告されていることだ。 Stalderらの総説(『Endocrine Reviews』2025年)は、「平日・勤務日のCARは、休日・余暇の日より大きい」という所見が繰り返し確認されていると整理している。難しい課題があると事前に伝えられた参加者でCARが大きくなった実験もあり、これが「CARの予期仮説」と呼ばれている。

ただし、ここはきれいに決着していないことも書いておきたい。 PowellとSchlotzが2012年に『PLOS ONE』で報告した研究(23人・平日2日間の日常生活測定)では、「今日はストレスの多い1日になりそうか」という本人の自覚的な予想は、その日のCARの大きさを予測しなかった(p=.44 / p=.91)。著者らは、予期の働きは自覚を経ずに動いているのかもしれない、と考察している。

まとめると、曜日のような大きな枠では差が出るが、「今日は緊張する」という自覚とCARが素直に対応するわけではない。 「明日はコンペだからコルチゾールが出ている」と言い切るには、まだ根拠が足りない、というのが今の位置だ。

裏側:早く目が覚めた朝は、たいてい寝不足の朝でもある

ここまでは「体はよくできている」という話だった。裏側の話をする。

早く目が覚めたということは、その分だけ眠れていないということでもある。 就寝時刻がふだんと同じで起床だけが2時間早ければ、睡眠は単純に2時間短い。

厚生労働省の『健康づくりのための睡眠ガイド2023』は、成人について「おおよそ6〜8時間が適正な睡眠時間と考えられ、1日の睡眠時間が少なくとも6時間以上確保できるように努めることが推奨されます」としている。 そして睡眠不足は「日中の眠気や疲労に加え、頭痛等の心身愁訴の増加、情動不安定、注意力や判断力の低下に関連する作業効率の低下」をもたらし、「事故等の重大な結果を招く場合もある」と明記されている。

同ガイドにはこういう一文もある——「休日に長時間の睡眠が必要な場合は、平日の睡眠時間が不足しているサイン」。 ゴルフの日はその逆で、休日なのに平日より短く寝ている。週末に体を休めるつもりが、1週間でいちばん睡眠を削る日になっていることは、けっこうある。

「わくわくして目が覚めた」の裏側には、たいてい睡眠不足が貼りついている。 目が覚めたこと自体は悪いことではない。ただ、目覚めの良さと睡眠の足りている・足りていないは別の話として切り分けたほうがいい。

起きたのはあなただけではない。腸も一緒に動きだしている

覚醒は、腸にとってもスイッチだ。

健常者の大腸の運動を24時間記録したNarducciらの研究(『Gut』1987年)では、大腸の運動指数は「食後と朝の覚醒時に有意に増加した」とされ、強い蠕動(高振幅の伝播性収縮)の多くも朝の覚醒後に起きていた。眠っている間の大腸の活動は最小で、目が覚めた瞬間から動きだす。

つまり、目覚ましより先に目が覚めた朝は、腸も予定より早く動き出している。 早く起きた分だけ朝食もコーヒーも前倒しになり、その先のタイミングも前倒しになる。 「早起きできてラッキー」と思った30分後に、高速道路の上で別の問題が始まる——というのが、このシリーズでいちばん共感を集めるあるあるだ。

大腸側のメカニズムと、起床から出発までの逆算タイムテーブルは姉妹記事にまとめてある。 この記事と合わせて読むと、ゴルフの日の朝がひとつながりの話になる。

どうすればいいのか:起床は動かせない。動かせるのは就寝だけ

ゴルフの日の起床時刻は、スタート時刻から逆算した時点で決まってしまう。 7時台スタートなら5時前後には起きることになる。ここに交渉の余地はない。 だから調整できるのは、前日の就寝時刻だけだ。

目が覚めてしまったときは

予定より1時間早く目が開いてしまったときの選択肢は2つある。

  1. 二度寝を狙う — うまくいけば得。ただし寝落ちして起床が遅れるリスクを抱える。アラームを掛け直さずに二度寝するのは、いちばんやってはいけない。
  2. 起きて、その1時間を逆算に使う — 遅刻の不安が消え、朝食とトイレの時間を確保できる。結果として車の中の焦りが減る。

慌てて家を出るくらいなら、後者のほうがその日のスコアには効く。二度寝で失敗するくらいなら、起きて逆算に回すほうが安全だ。

行きの運転が、居眠り事故のいちばん多い時間帯に重なる

寝不足で始まる1日には、具体的なリスクがひとつある。運転だ。

日本自動車研究所の分析(栗山・大谷、2023年)によれば、人的要因による死亡・重傷事故に占める居眠り運転事故の割合は「23時〜24時から増え始め、4時〜5時にピークを迎えた」とされ、4時から8時頃にも多い。ピークの時間帯では、その割合は約5%に達する。 さらに居眠り運転事故は死亡6.9%・重傷20.3%で、居眠り以外の事故に比べて死亡・重傷になる率が高いとも報告されている。

ゴルフ場へ向かう車が走っているのは、まさにこの時間帯だ。 早く目が覚めたことを「今日は調子がいい」と解釈してそのままハンドルを握るのは順番が逆で、実際には寝不足の状態で、最も危ない時間帯に、慣れない道を走っていることになる。

そして、眠れない日が続く場合や、日中に強い眠気があって支障が出ている場合は、「ゴルフの前だから」で片づけないでほしい。e-ヘルスネットも「昼間に強い眠気があり、居眠りなどで学業や仕事に支障がある場合は、睡眠障害専門の医療機関を受診して必要な検査・治療を受けることが大切です」と受診を勧めている。

結論:良い現象である。ただし睡眠時間は別で数えること

整理する。

楽しみで目が覚めること自体は、悪いことではない。むしろ何十年もゴルフを続けられる人の特徴かもしれない。 ただ、その朝に足りていないのは気合いではなく睡眠時間で、そのまま運転して向かうのがいちばん危ない。 前日の夜、23時に電気を消す。それだけで、朝の体の準備が本来の働きをする。

よくある質問

目覚ましより先に起きられるのは、体に良いことですか?

起き方としては悪くありません。Kaidaらの研究(2005年)では、自分で決めた時刻に起きた場合は覚醒の瞬間に心拍が急上昇せず、外から起こされた場合は心拍も血圧も急上昇しました。ただし「良い起き方」であることと「睡眠が足りていること」は別です。起床が早まった分を就寝側で埋めていなければ、単に睡眠時間が短い日になります。

「4時に起きる」と念じれば、本当に起きられますか?

そういう準備が体で始まることは確かめられています(Bornら、1999年)。ただし狙った時刻にきちんと目覚められる人は多くありません。自己覚醒の文献レビュー(Vergaら、2023年)は、複数研究の参加者715人を合わせても17%程度と整理しています。目覚ましは必ず掛けてください。

前夜に寝酒を飲むと、寝つきが良くなるのでは?

寝つきは良くなります。ただし厚生労働省のe-ヘルスネットは「アルコールは一時的には寝付きをよくしますが、深いノンレム睡眠を減らす、中途覚醒を増やすなど、睡眠の質を低下させる」としています。もともと早起きで睡眠が短い日に、その短い睡眠の質まで下げることになります。

予定より1時間早く目が覚めました。二度寝すべきですか?

アラームを掛け直したうえでなら、二度寝は選択肢です。掛け直さずに二度寝するのがいちばん危険です。遅刻の不安を抱えて眠るくらいなら、起きてその1時間を朝食・トイレ・積み込みの逆算に回したほうが、その日の朝は落ち着きます。

ゴルフの日の朝だけお腹が緩くなるのも、同じ理由ですか?

根っこは同じ「覚醒」です。大腸の運動は朝の覚醒時に増えることが報告されており(Narducciら、1987年)、早く目が覚めればその立ち上がりも前倒しになります。そこに朝食とコーヒーが重なり、ピークが車の中に落ちる、というのが姉妹記事のテーマです。

寝不足のままラウンドに向かうのは、そんなに危ないですか?

運転のリスクは無視できません。日本自動車研究所の分析(2023年)では、死亡・重傷事故に占める居眠り運転事故の割合は4時〜5時にピークを迎え、4時から8時頃にも多いと報告されています。しかも居眠り運転事故は死亡・重傷になる率が高いとされます。ゴルフ場へ向かう時間帯とちょうど重なるので、眠気を感じたら必ず仮眠を挟んでください。

ほかのあるある

出典

最終更新: 2026-08-18