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ゴルフ場に向かう車の中で、なぜ便意が来るのか

ゴルフ場に向かう車の中で、決まって便意が来る

ホント 気のせいではない。起床・朝食・コーヒーで発火した大腸運動のピークが、ちょうど車に乗っている時間帯に重なる

高速に乗った瞬間に、来る。まだ30分ある、まだ20分ある、と標識のキロ数を数えはじめる。ゴルフの日の朝だけ、決まってこれが起きる。 結論から言う。これは意志の弱さでも体質でもなく、**時間割の問題**である。起床と朝食で発火した大腸の運動は、30〜60分後に山が来る。ゴルフの日は「起きてすぐ出る」ので、その山がちょうど車に乗っている時間帯に落ちる。 平日の朝は、同じ山が家のトイレで来ている。違うのは体ではなく、そのとき自分がどこにいるかだけだ。 だから対策も「我慢する」ではない。**ピークを家に寄せる**。それだけで、この問題はかなりの部分が解ける。

結論:ピークが車内に落ちるのは「時間割」の問題

上段に起床・朝食とコーヒー・便意のピークを並べた腸のタイムライン、下段に出発・高速走行・ゴルフ場到着を並べた移動のタイムラインを描き、便意のピークが高速走行中の時間帯に重なっていることを示した図
腸のタイムラインと移動のタイムラインを重ねると、ピークがちょうど高速走行中に落ちる

ゴルフの日に車の中で便意が来るのは、偶然でも気のせいでもない。発火から山までにかかる時間と、その時間に自分がどこにいるかがずれているだけである。

大腸の動きには順番がある。起きる、食べる、コーヒーを飲む——このどれもが大腸のスイッチで、押してから山が来るまでにおよそ30〜60分かかる。平日はその30〜60分を家で過ごしているので、山は家のトイレで消化される。ゴルフの日は起きて30〜40分で家を出るため、まったく同じ山が車の中で立ち上がる。

そのうえ車は、便意にとって条件が最悪の箱でもある。降りられない・トイレがない・同乗者がいる・遅刻できない。この4つが同時に揃う場所は、日常生活にそう多くない。

この記事は2部構成で答える。

そのうえで、よく言われるのに根拠を確認できなかった説を1章使って否定し、最後に逆算タイムテーブルで「ピークを家に寄せる」具体策まで出す。

第1部①:3つの発火装置は、どれも「30〜60分後」に山が来る

大腸をその気にさせるスイッチは、ゴルフの日の朝に3つとも押されている。しかもどれも、押した瞬間ではなくしばらく経ってから効いてくる。ここがこの記事の核心にあたる。

発火装置①:起床そのもの

大腸の運動には、はっきりした日内リズムがある。便をまとめて先へ送る強い蠕動を高振幅伝播性収縮(HAPC)と呼ぶが、レビュー論文はこのHAPCの最大90%が日中に起き、夜間はまれだと整理している。さらに「HAPCの発生率は朝、目覚める直前あるいは目覚めたときに、朝食より前に増加する」とも述べており、発生のピークは覚醒時の午前7時ごろ、朝食後の午前9時ごろ、昼食後の午後1時ごろに検出されている(Hibberd et al. Front Physiol 2023)。

つまり「起きた」こと自体が、食事とは独立した腸へのスイッチである。

数字でも確認されている。脊髄損傷者と健常者の大腸内圧を24時間以上記録した研究では、健常対照群のHAPCは睡眠中が0.8±0.2回/時だったのに対し、目覚めた直後の1時間では10.5±2.0回/時まで増えた(P<0.005)。十数倍である(Ancha et al. World J Gastroenterol 2010)。ただしこの研究の健常対照は6人と少人数で、睡眠の判定も睡眠ポリグラフではなく記録と日誌によるものだと著者自身が限界に挙げている。大きさをそのまま鵜呑みにはできないが、向きははっきりしている

発火装置②:朝食(胃結腸反射)

食事もHAPCの代表的な刺激で、同じレビューは「食べてから数分で効き始め、食後2時間ほど続く」としている。胃に食べ物が入って伸展されると、神経とホルモンを介して大腸に指令が行き、便がS状結腸から直腸へ送られる。直腸が広がると、それが便意として届く。

発火装置③:コーヒー

古典的だが決着のついた実験がある。健常な若年者99人へのアンケートで、29%(女性では63%)が「コーヒーで便意が起きる」と答えた。さらに14人の直腸S状結腸を内圧測定したところ、反応する8人では摂取後4分以内に運動指数が上がり、その亢進は少なくとも30分続いた(Brown, Cann, Read. Gut 1990)。

この実験のいちばん効く結果は、次の2つである。

つまり「デカフェにすれば安心」は成り立たない。対策の章で、この伏線を回収する。

この3つが、ゴルフの日の朝には30〜40分のあいだに立て続けに押される。押した時刻が近ければ、山も近いところで重なる。

第1部②:平日の朝と、ゴルフの日の朝——違うのは居場所だけ

3つの発火装置は、平日も休日も同じように働いている。変わるのは「発火したとき、自分がどこにいるか」だけだ。

平日の朝 ゴルフの日の朝
起床 7:00 5:00(2時間早い)
起床から家を出るまで 1〜1.5時間 30〜40分
朝食・コーヒー 家で、座って 急いで、または車内やコンビニで
便意のピーク(発火から30〜60分) まだ家にいる すでに車の中
そのときトイレは すぐそこ 高速なら次のパーキングエリアまで目安15km

同じ体、同じ朝食、同じコーヒー。違うのは「どこにいるか」だけ。

「自分だけおかしいのでは」という不安は、ここでほぼ解けるはずである。あなたの腸は、平日とまったく同じ仕事をしている。

補足:早起きそのものも、無害ではない

ゴルフの日は言わば「1日だけの交代勤務」で、体内リズムに前倒しのズレを入れている。交代勤務とIBS発症の関連を調べた大規模コホート(UK Biobank、268,290人・平均13.7年追跡)では、交代勤務が「いつも/たいてい」の人はIBS発症のハザード比が1.12(95%信頼区間1.03〜1.23)と報告された(Zhong et al. Front Public Health 2025)。

これは長期の交代勤務についての研究であって、月に数回のゴルフが病気を起こすという話ではない。「リズムを前にずらすこと自体が腸にとってニュートラルではない」という補助線として読んでほしい。

第2部①:車という箱の問題(1)降りられない

不安が高まる、自律神経が動く、実際に腹部症状が出る、やっぱり来たと確信する、次はさらに不安になる、という5つの状態が円環状につながっている図
予期不安の悪循環。輪のどこかを切らないと、次のラウンドでも同じことが起きる

発火のタイミングが同じでも、家の廊下で来るのと高速道路の上で来るのとでは、意味がまったく違う。ここからは車という箱の側の問題になる。

次のトイレまでは、物理的に確定で行けない

高速道路に乗った瞬間、「今すぐ降りる」という選択肢は消える。NEXCO東日本の解説によれば、休憩施設はパーキングエリアがだいたい15km間隔に1つ、サービスエリアが50km間隔に1つを目安に設置されている。ただし同じ解説は「路線の特徴などを総合的に勘案して設置する場所を決めるので、必ずしもこの距離毎にあるわけではありません」とも明記している。

目安どおりだとしても、時速80kmで走って15kmはおよそ11分、50kmならおよそ37分。渋滞に入れば、この前提はそのまま壊れる。早朝のゴルフ渋滞は、まさにそれが起きやすい時間帯である。

予期不安の悪循環

ここで起きるのが、次の円環である。

不安になる → 自律神経が動く → 実際に腹が動く →「やっぱり来た」→ 次はもっと不安になる

電車通勤で腹痛が起きる人と、まったく同じ構図がゴルフの移動で起きている。

★ そして重要なのは、この不安が「思い込み」ではないことだ。次のパーキングエリアまで降りられないのは事実であり、判断としてはむしろ正確である。合理的な認識だからこそ、「気にしなければいい」と言い聞かせても消えない。

「気の持ちよう」で終わらせない

難治のIBSに対しては、認知行動療法が心理療法の選択肢として学会誌でも紹介されている(船場ほか. 心身医学2021)。ただし大元のコクラン・レビュー自体は、心理療法について「治療終了時点では通常ケアや待機群よりわずかに優れるかもしれないが、その臨床的な意義には議論の余地がある」という慎重な書き方をしている(Zijdenbos et al. Cochrane CD006442)。

万能の治療ではない。しかし「治療の対象になりうる」ものであって、性格や我慢の問題ではない——ここは正確に受け取ってほしい。

第2部②:車という箱の問題(2)ちょうどこの時間に、緊張が集中する

ストレスは、比喩ではなく物理的に大腸を動かす。

日本消化器病学会のガイドラインは「IBS患者ではCRH負荷に対する大腸運動亢進がみられ、ストレス誘発性大腸運動亢進はCRH拮抗薬で抑制される」と記載している(機能性消化管疾患診療ガイドライン2020)。ストレスで視床下部から出るCRHという物質が、大腸の運動亢進と内臓の知覚過敏に関わっているということだ。

そして、これは珍しい体質の話ではない。日本大腸肛門病学会は、日本におけるIBSの有病率を10〜20%と説明している。さらに病型について「男性は下痢型が多く、女性は便秘型、あるいは下痢と便秘を繰り返す混合型が多く」とも書いている。ゴルフの朝に困るのは、まさに下痢型の症状である。

なぜ「車の中」に緊張が集中するのか

ここからはゴルフ側の事情になる。車中というのは、こういう時間である。

つまり、発火装置が効いてくる30〜60分後という時間帯と、その日の緊張が最も濃くなる時間帯が、車の中でぴったり重なっている。時間割の一致は偶然ではなく、ゴルフの当日動線そのものが作っていると考えられる。

第2部③:運転席と助手席では、つらさが違う(ここからは仮説)

先に断っておく。この章はエビデンスの裏付けが薄い。 車内の便意に絞った研究は見当たらないので、以下は「そう考えると説明がつく」という仮説として読んでほしい。

同じ車に乗っていても、席が違えば不安の質が違う。そしてどちらの席でも、詰まっているのは同じ一点である——言い出しにくい

ここは、対策の章の「乗る前に一言言っておく」でほぼ解ける。順番としては、この章の悩みを対策章が引き取る形になる。

よく言われるのに、根拠を確認できなかった説

ここはこの記事でいちばん大事な章かもしれない。「全部本当でした」で終わらせないための章である。

「車の振動が腸を刺激するから」

よく聞く説明だが、ヒトで振動が便意を誘発することを示した直接的な根拠は、今回の調査では見つけられなかった

職業ドライバーの全身振動について確立しているのは、主に腰痛など筋骨格系の話である。全身振動と腰痛・坐骨神経痛のシステマティックレビューとメタアナリシスは、全身振動への曝露が腰痛(オッズ比2.17)と坐骨神経痛(オッズ比1.92)のリスクを高めるとまとめているが、消化管の症状にはそもそも触れていない(Burström et al. Int Arch Occup Environ Health 2015)。研究が積み上がっている領域は、腹ではなく腰なのである。

「座った姿勢で腹部が圧迫されるから」

骨盤が後ろに倒れると腹腔が狭くなる、という説明も流通している。しかし出典を一次情報まで辿れなかった。断定はできない。

結論

振動やシートを疑う前に、タイミング(3つの発火装置)と予期不安を疑うほうが、実態に合う。

誤解のないように書いておくと、「根拠を確認できなかった」は「嘘だ」という意味ではない。今の時点で確かめられていないということだ。ただし、確かめられていないものを原因に据えて対策を組むと、効かない対策に時間とお金を使うことになる。クッションを買い替えるより、起床を30分早めるほうが効く——この記事はそう言い切れる。

出発前に「最後の砦」を2か所決めておく

予期不安は、逃げ道が具体的に決まっていないときにいちばん大きくなる。だから前夜のうちに、ルート上のトイレを2か所だけ決めておく。

  1. 高速に乗る直前のコンビニ(乗る前の最後のチャンス)
  2. 最初のパーキングエリア(乗ったあとの最初のチャンス)

決めた瞬間に不安がかなり落ちる。「どこで降りられるか分からない」から「あそこで降りられる」に変わるだけで、輪の一部が切れる。

実務的な補足を3つ。

対策:我慢するのではなく、ピークを家に寄せる

3つの発火装置は避けられない。起きるのをやめることも、朝食を抜くのも解決策ではない。ただし、発火させる時刻はこちらで決められる

だから正解は1つに絞れる。家のトイレにいる時間帯にピークが来るよう、逆算する。

逆算タイムテーブル(8:00スタート・移動1時間の例)

時刻 やること 狙い
5:00 起床 発火装置①をここで押す
5:15 朝食+コーヒー 発火装置②③を家で押す
5:45〜6:10 トイレ(急がない・座る時間を確保する) ピークを家で消化する
6:15 出発(乗る前に、行きたくなくてももう一度座る) 済ませた状態で乗る
6:30 高速に乗る直前のコンビニ=最後の砦 保険
7:15 クラブハウス着・受付・着替え
7:45 ティーイングエリアに向かう直前にもう一度 スタート前の最終確認

要点は1つだけである。「起床→朝食」を早めるほど、ピークが前に寄って家で終わる。

逆に言えば、「ギリギリまで寝て、車で缶コーヒー、朝食はコースで」は最悪の並びだ。発火装置を、自分の手で車内に仕込んでいることになる。

そのほか、効くこと

やってはいけないこと

下痢止めを予防的に常用する。 自己判断で毎回飲むのは避けたい。まず原因側(起床と朝食の時刻)を整える。薬を使うなら医師に相談したうえで、と考えてほしい。

水分を控える。 これは特に強く言っておきたい。ゴルフは、18ホールを歩けば11,245〜16,667歩、距離にして4〜8マイル(およそ6〜13km)を歩く運動である(Murray et al. Br J Sports Med 2017)。夏場にこれを脱水気味で回れば、便意を我慢する不安よりも脱水・熱中症のリスクのほうがはるかに大きい。日本スポーツ協会は、運動時の水分補給の目安を「体重減少が体重の2%以内におさまること」としている。トイレを減らすために水を減らす、は絶対にやらない。

着いてからのこと(短く)

この記事は車の話なので、到着後は深追いしない。3点だけ。

進行そのものの考え方は、マナーの解説ページに切り出してある。

これは病気なのか(受診の目安)

「ゴルフの日だけ」なら、生活パターン由来の可能性が高い。この記事の対策で、多くの場合は位置がずれる。

ただし、日常的に起きているなら話は別である。腹痛と便通異常が繰り返し続くならIBSの可能性があるが、診断は医療機関が行うものであって、記事や自己判断で決めるものではない。

自己判断しないほうがよいサイン

日本消化器病学会のガイドラインは、警告症状・徴候として次を挙げている。

さらに危険因子として「50歳以上での発症」「大腸器質的疾患の既往歴または家族歴」を挙げている。これらに当てはまる場合は、生活パターンの調整で様子を見るのではなく、消化器内科を受診してほしい。

最後に

IBSと診断された場合でも、食事と生活習慣の指導から始まり、薬物療法、そして難治例には認知行動療法などの心理療法まで、選択肢は段階的に用意されている。

この記事で伝えたかったのは、結局のところ1行に尽きる。あなたの腸は、平日とまったく同じ仕事をしている。ずれているのは、時間割のほうだ。

よくある質問

ゴルフの日、車の中でだけお腹が痛くなるのはなぜですか?

起床・朝食・コーヒーで発火した大腸の動きは、30〜60分後にピークが来るためです。ゴルフの日は起きて30〜40分で家を出るので、そのピークが車の中に落ちます。平日はまったく同じピークが家で来ているだけで、体は何も変わっていません。

運転している日と、乗せてもらう日でつらさが違う気がします。

「自分で停められる」という統制感の有無が効いていると考えられます(この機序は仮説です)。助手席では言い出さないと車が停まらないぶん、予期不安が上がりやすくなります。乗る前に「途中で1回停めるかも」と伝えておくだけで、この負担はかなり下がります。

高速に乗る前に、何をしておけばいいですか?

行きたくなくても一度トイレに座ること、ルート上のトイレを2か所(乗る直前のコンビニと最初のパーキングエリア)決めておくこと、前夜に渋滞情報を見ておくことの3つです。パーキングエリアは約15km、サービスエリアは約50km間隔が目安とされますが、NEXCO東日本自身が「必ずしもこの距離毎にあるわけではない」と書いているので、自分のルートで確認してください。

コーヒーをやめれば治りますか?

やめるより、飲む「場所」を家に変えるほうが先です。なおカフェインレスのコーヒーでも同じ運動亢進が出た一方、白湯では出なかったという実験結果があります(Gut 1990)。デカフェに替えても、飲む場所が車内のままなら山の位置は動きません。

渋滞にはまって、どうにもならないときは?

我慢を続けないでください。同乗者に伝えて、最寄りの出口かパーキングエリアを目指します。スタート時刻に遅れることより、安全と体のほうが優先です。前もって「停めるかも」と言ってあれば、この判断はずっとしやすくなります。

病院に行く目安はありますか?

発熱・関節痛・血便・6ヵ月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少・異常な身体所見といった警告症状がある場合、また50歳以上での発症や大腸の病気の既往歴・家族歴がある場合は、消化器内科の受診をおすすめします(日本消化器病学会ガイドライン2020)。ゴルフの日だけでなく日常的に続いている場合も同様です。

ほかのあるある

出典

最終更新: 2026-08-17