あの風呂上がりの一杯だけ、明らかに味が違う
半分ホント うまさは本物。ただし変わったのはビールではなく、5時間ぶん乾いて熱を持ったこちらの体のほう
18番のグリーンを上がって、風呂に入って、席についてジョッキが来る。最初の3口くらいは、たぶん味など分かっていません。 同じ銘柄を家で飲んでも、あの感じにはなりませんよね。理由はあります。ただ、うまくなっているのはビールのほうではありません。
あのうまさは気のせいではありません。本当に起きています。
ただ、変わっているのはグラスの中ではなく、こちら側です。同じ銘柄、同じ工場、同じ温度。それでも18番のあとだけ別物に感じるなら、変わったのは味そのものではなく、味を採点している体のほうだと考えるのが自然です。
実際、家のソファで同じ缶を開けても、あの感じにはなりません。ラウンドの日だけ何かが起きているなら、疑うべきは直前の5時間のほうです。
その5時間で、体には二つのことが起きています。水分が減っていることと、体温が上がっていること。この二つがそろったとき、冷たくて水分の多いものは、実際にうまいと感じられやすくなります。
うまさは本物です。残念なのは、その本物のうまさが、体からの「かなり乾いています」という信号でもあることです。
ゴルフは、思っているより歩いています。
競技レベルの選手が18ホールを歩いて回ったとき、歩数はおよそ1万7000歩でした。同じ選手がカートに乗った日でも6000歩台です。乗っていても、歩いていないわけではありません。しかも同じ研究では、歩いて回ったほうが深部体温がラウンドの途中で上がっていました。
夏場は、ここに直射日光と湿度が乗ります。屋根があるのはカートの上だけ、日陰はティーイングエリアの脇だけ。体は5時間かけて、汗で体温を下げ続けています。汗の材料は体の中の水分と塩分ですから、下げ続けたぶんだけ中身は減ります。
やっかいなのは、軽い脱水の段階では、のどの渇きがまだ来ないことです。「渇いていないから足りている」は成り立ちません。渇いたと感じた時点で、すでに後追いになっています。
あがったときのあの乾き切った感じは、5時間ぶんの帳尻です。
同じものでも、体の状態しだいで、快く感じたり不快に感じたりします。味覚でも体温感覚でも起きることで、古くから研究されています。
分かりやすいのは温度です。冷たい水は、ぬるい水より渇きを癒すと感じられます。口の中を冷やされること自体が快く感じられるためで、この快さは体温が上がっているときほど強く出ます。逆に、寒い日に同じ冷水を飲んでも同じようにはなりません。
つまり、あのジョッキが当たっているのは味覚だけではありません。乾いている・熱を持っている・口の中を冷やされた。この三つが同時に満たされたときの、体の反応です。
だから風呂上がりが強いのも筋が通っています。湯で体温を上げてから、その日いちばん冷たいものを流し込んでいるわけですから。
ビールが変わったのではなく、採点する側が甘くなっている。少し悔しいですが、そういうことです。
うまい話のあとで申し訳ないのですが、ここは正直に書きます。
汗で失った水分をビールで補おうとする考え方は誤りだと、公的なマニュアルにはっきり書かれています。理由として挙げられているのは利尿作用です。飲んだぶん以上が、あとから尿になって出ていく、と。
ただ、実験を見ると少し話が違います。脱水した状態でビールを飲んだ場合、アルコールの利尿作用はほとんど働きませんでした。体が水を手放したくないので、いつもの利尿がかかりにくいのです。「飲むほどカラカラになる」は、少なくともあがり直後の体には当てはまりません。
それでも水分は戻りません。理由は別のところにあります。失った汗と同じ量を飲んだ実験でも、5時間後の水分収支はマイナスのままでした。しかもアルコール5%のビールで体に残ったのは、飲んだ量の2割ほど。水やノンアルコールのほうがまだ残ります。
どんどん出ていくから戻らないのではなく、そもそも入れたものが残らない。行き先は同じです。ビールは水分補給になりません。
あがってから取り返すより、回りながら入れておくほうが確実です。
効くのは一度に飲む量ではなく、渇く前に飲むことと、その回数です。渇きは遅れて来るので、渇いてから飲むかぎり、ずっと後追いのままになります。
| いつ | どうする |
|---|---|
| スタート前 | 暑い日は、家やクラブハウスで先に飲んでおく |
| ラウンド中 | 30分に1回以上、休憩とセットで |
| よく汗をかく日 | 水だけにしない。0.1〜0.2%の食塩水が目安 |
| あがったあと | まず水か経口補水液。乾杯はそのあと |
飲むものは冷たいほうが有利です。理由は二つあって、深部体温を下げてくれることと、胃にとどまる時間が短くて吸収に回るのが早いことです。
自分に必要な量を知りたいなら、ラウンドの前後で体重を測るのがいちばん確実です。減りが2%以内に収まっていれば、その日の飲み方で足りています。
熱中症かもしれない、と思ったときの目安です。 めまいや立ちくらみ、こむら返りだけで、涼しい場所で休んで水分と塩分をとれば良くなるなら、その場の対応で構いません。頭痛や吐き気、体のだるさが出たとき、自分で水分や塩分をとれないとき、休んでも良くならないときは、医療機関を受診してください。少しでも意識がおかしいときは、体を冷やしながら救急車を呼ぶ場面です。
短く、はっきり書きます。ゴルフ場から自分の車で帰るなら、その日は飲まないでください。
呼気のアルコール濃度が基準に届かなくても、酒気を帯びて運転すること自体が法律で禁じられています。「少しだけなら」の線は、そもそも引かれていません。
そしてゴルフで効いてくるのがここです。責任を問われるのは運転した人だけではありません。酒を出した人も、車を提供した人も、それと知って同乗した人も罰則の対象です。同じ組の4人が、まとめて当事者になります。「1杯くらい大丈夫だろ」は、勧めた側の問題でもあります。
飲酒運転の死亡事故率は、飲んでいない場合の約6.9倍です。夜まで飲んだ翌朝も、体にアルコールが残っていることがあります。
「何時間空ければいいか」は書きません。分解の速さには個人差があるので、時間で線を引く考え方そのものが危ないからです。飲むなら運転しない。運転するなら飲まない。ゴルフ場に着いた時点で、どちらかに決めておいてください。
量を先に決めるより、ラウンドの前後で体重を測るほうが確実です。減りが2%以内に収まっていれば、その日の飲み方で足りています。回数の目安は30分に1回以上。汗をたくさんかく日は、水だけでなく塩分も一緒に入れてください。
なりません。失った汗と同じ量を飲んだ実験でも、水分収支はマイナスのままでした。うまさは本物ですが、補給としては数えないでください。先に水か経口補水液を1杯入れて、それから乾杯するのが現実的です。
アルコール入りよりは残ります。実験では、ノンアルコールビールで体に残った割合は水とほぼ同じでした。ただし、それでも失ったぶんを取り戻すには足りていません。ノンアルだから安心ではなく、水や塩分と組み合わせる前提で考えてください。
渇く前に飲むこと、日陰と休憩を意識して使うこと、体調が悪い日は無理をしないこと。この三つです。軽い脱水の段階では、のどはまだ渇きません。頭痛や吐き気、体のだるさが出たら、その時点で運動をやめて涼しい場所に移り、良くならなければ医療機関を受診してください。
時間ではお答えできません。分解の速さには個人差があるので、「何時間経ったから大丈夫」という考え方そのものが危険です。自分で運転して帰る日は飲まない。飲む日は運転しない。それだけです。
最終更新: 2026-08-30